「Growing」Sleeping People 〜「マスロック」って何?
買いたてほやほや。先日、toe を聴きなおして「ポストロック」なるジャンルにフラグが立ったのでちょっと足を伸ばしてみる企画、その1。「ポストロック〜ポストハードコア/マスロック」バンド、Sleeping People の2作品目。2007 年、アメリカはサンディエゴ産。
「こういうの無条件に好き」
こういうの無条件に好き。感想、そのひとことで本日のレビューは終わりです。
あ、ええと、どんな音楽かってのは、MySpace のページ「MySpace.com - Sleeping People」に3曲ほどあがっているのでお聞きください。
あと、見た目はこんな感じ。
▼YouTube - Sleeping People - Nasty Portion (Live)
ぼやっと映る女ギター(読み:じょぎたー)は素敵ですねえ。
紋きりタイプにまとめておきます。って自分で言うより引用したほうが100倍早くて適切じゃない。
2人のギタリストが紡ぐ複雑で鋭い質感を持ったフレーズのリフレイン、グルーヴィーかつリズミカル、時折ギターリフの間を縫って個性的なフレーズを奏でるベース、そして難解な変拍子やポリリズム、テンポチェンジを多用した隙と無駄のない凄まじいドラミングが独自の世界感を築き、まるで精巧な機械を組みあげていく工程を音化したかのような緻密に計算し尽くされた緊張感ある人力ミニマルミュージック!!
http://www.amazon.co.jp/Growing-SLEEPING-PEOPLE/dp/B000T97SX4
はい、こんな感じ。ちゃんちゃん。サンプル音源とこの謳い文句でピンとクル人は十分クルし、しらーっとする人にはずっと縁のない音楽。だからもうこれ以上何か言う必要はないという按配。あ、第一印象述べてなかったね。第一印象「★★★★」。これはおすすめ。
本文は以上。以下は蛇足。
キングクリムゾンを思い出さずにはいられません。
で、本作を聴いたわれわれ栗ヲタ*1が脊髄反射的に思うのは「これは '80年代〜の King Crimson じゃないか」。先に引用した紹介文句は、そのまんま '80s〜 クリムゾンの紹介文に転用してもまったく違和感がない。Sleeping People が「ポストロック〜ポストハードコア/マスロック」なら、クリムゾンはさしずめ「ニューウェーブ時代のプレポストロック〜プレハードコア/マスロック/プログレッシブロック/ミニマル/人力テクノ」ってところでしょうか。
▼YouTube - King Crimson - The ConstruKction Of Light (live)
2000 年代の「プレポストロック〜プレハードコア/マスロック/プログレッシブロック/ミニマル/人力テクノ」の代表曲。序盤は退屈なんですが、3 分前あたりからの展開が素晴らしい。
▼YouTube - King Crimson - Facts of Life (live @ Tokyo)
「プレハードコア」度をフィーチャーすればこれかな。無駄に複雑なギターの絡み、無駄に変拍子。ティラノサウルスの全身骨格の如きプログレの威厳。
「プログレのパースペクティブ」に騙された!
クリムゾンっぽい音楽が「マスロック」ってジャンルまで与えられて存在するなんて今の今まで知らなかったですよ。「こういう音楽」はクリムゾンしかいないって思い込んで、クリムゾンばかり熱心に聴いていた。というのも、「プログレのパースペクティブ」なるムックの「ディシプリン」('81 年)*2評に、以下のような文があったのを半ば鵜呑みにしていたのさ。
極論するならたったひとりの追随者も生まなかったのが『ディシプリン』なのだ。換言すれば、シーケンシャルな反復とポリ/クロスリズムを非人間的なまでの正確さで追求したしたこの音楽は、他者の追従をまるで許さなかったのである。
「違うじゃないか追従許しまくってるじゃないか」と目を覚まされたのが、Sleeping People の作品であったわけ。進化論的には直接の子孫じゃないのかもしんないけどさ。つまり、同じ形質を持っていたからといって、それは独立して獲得された可能性があるから、それだけで祖先は一緒と判断するのは早計、みたいな。「ポストロック」は「プログレ」の文脈で語られるのを嫌がっているような節があるから実際別なのかもね。ここは識者の補足を求めたいところ。
「プログレのパースペクティブ」はかなり独特なプログレ観で語られる面白い本なので古本屋などで見かけたら手にとってみて下さいな。*3
「マスロック」って何?
ここまででなどもコピペしましたが、内報された一枚っぺらの解説によると彼らはジャンルとして「ポストロック〜ポストハードコア/マスロック」と位置づけられていました。ななななにそのややこしいジャンル名は!?
検索してみた。
「Math Rock」でマスロック。MathematicsなRockってことで、直訳すると「数学的なロック」ってこと。
乱暴に言ってしまえば、ハードコア以降のプログレ的なスタンスのポストロックって感じでしょうか楽曲は緻密に計算され、確かなテクニックに裏打ちされた変拍子、ループ、ミニマル、ドローンなどなどを現代的な解釈で消化しつつハードコア、ポストハードコア以降のヘヴィなサウンドを追求してるって感じのシーンです。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1311521888
変拍子や反復の多用、ハードコアの影響を受けたと思しきソリッドな音色などを特徴とするポストロック。まぁ要するにギターがテロテロみたいな音で鳴ってて、ドラムが手数多い癖につんのめりそうな感じのインストのことだと思ってください(頭の悪い説明ですこと)
http://babylonkey.blog71.fc2.com/blog-entry-3.html
ふーん。
で、「ポストロック」の歴史を解説したページによると・・・
1991年 Slint 『Spiderland』リリース。
http://www.musicfield.jp/musiclab/index04.html
今やポストロッククラシックとして随分な認知っぷりのこの一枚。(略)大袈裟に言ってこのバンドが存在しなければポストロックとかマスロックという音楽は生まれなかった。先駆者。
'70 年代のドイツプログレから一気に '91 年までぶっとんでいます。やっぱり音楽的にはクリムゾンの手法に酷似しているけど、大雑把に言うとそれは単なる偶然で系統的には独立しているげな雰囲気です。ふむ。「たったひとりの追随者も生まなかった」という前掲書の指摘も正しいのかな。
代表に挙げられているミュージシャンをちょこっと聞いてみます。
▼YouTube - Slint - "Nosferatu Man"
先駆者ってやつです。いいですねえ。ハードなサウンドを鳴らしながらも、ロックンロール!みたいな熱さをまったく感じさせないクールネス。プレな奴らとは一緒にしないでくれなぜならおれたちゃポストだから、とリスナーに一線を引かせるに足る堂々たるたたずまい。
▼YouTube - don caballero and j geils band
いいですねえ。ホットでハードでありながらも、細部までしっかりメカニカルでテクニカルに作曲されていて耳が離せません。
はい、よいですね。あんまりごちゃごちゃせずにゆるく音楽が進んでゆくタイプですね。技巧的ではないですが雰囲気がよい。
はい、はいはい。「マスロック」、とても興味深いジャンルです。正直、かなりクビを突っ込もうかと思いましたよ。Sleeping People と一緒に don caballero を1作入手しましたからここらをとっかかりに。
隣接ジャンルもろもろ
ここまでは、「マスロック」とやらに入門する勉強でしたので、ここからはお礼に「ちょっと近いかも」な音楽のご紹介。
Tool
Sleeping People「Growing」でいうとラストの「People Staying Awake」などは、暗く重苦しい曲。Youtube ではいかいしたマスロック関連でもちらほらそういうのがある。それらを聴いて思い出すのは、tool というバンド。
▼YouTube - Tool - Rosetta Stoned
重い、暗い、技巧的で時々変拍子。よいでしょ?
Gordian Knot
「ポストロック然とした」音を聴くと思い出してしょうがないのが、Gordian Knot。
元 Cynic *4のショーン・マローン&ショーン・メイナードと King Crimson のトレイ・ガンが組、ゲストに Dream Theater のジョン・マイアングが参加したりとプログレ←→HR/HM 夢の競演が実現した*5プロジェクト。「Reflection」なんか、この「ELECTRIC COUNTERPOINT」をロックにアレンジしたかのよう。ミニマルでありながら HR/HM。このアルバム、地味ながらも飽きることなく永遠に聴き続けられる名盤だなあと思っていたが、音楽的造詣の深さもさすがだなあと見直してみる。お気に入り度:89点
参考:GORDIAN KNOT
http://d.hatena.ne.jp/fractured/20070831/1188591120
さらにさかのぼって Gordian Knot の首謀者が主催していたバンド、Cynic。
▼YouTube - cynic - veil of maya (live in berkeley/part1)
ジャンルでゆうと「デスメタル」になっちゃうけれど、ハードコアに圧倒するだけのデスじゃなくって、表情豊かで深さの感じられる名作。
あ、あと、あとあとあと、Tool, Cynic ときたら、Dream Theater とか Opeth とか・・・あとあとミニマル全般も関連するし、そもそそもわれらが King Crimson も、もももも。と取り留めないのでやめます。
強引にまとめ
「マスロック」なるジャンルの前後左右には、さまざまな異なるジャンルで名づけられた音楽が隣接している。包含関係の外側にポストロック、プログレ、ミニマル、その他そこらへんの音楽的要素を取り入れたもろもろ。「マスロック」を拠点にあるいは中継して幅広い音楽に出会ってみたい/頂きたい、と思うのでありました。
参考スレ
*1:King Crimson フリーク
*3:参考:http://boat.zero.ad.jp/floyd/progre/14.htm, 参考になったディスクガイド本~好みの音楽を探すいろいろな方法 その3
*4:名作「Focus」を発表して解散した幻のバンド。
*5:2nd では、King Crimsonのビル・ブラッフォードもちょろ参加