「Abyss」山中千尋
今日聴いた音楽。ミニマルプログレミニマルプログレと体力勝負が続いたのでゆったり Jazz を聴いて癒されましょう、その3。グループ『p』のアルバムに手を出すようなミーハーな感じで購入した、ジャズ・ピアニスト、山中千尋の最新作メジャー3枚目。2007 年、日本製。第一印象「★★★」。
- 山中千尋(p, key)
- Vicente Archer(b)
- Kendrick Scott(ds)
- Lucky Southern
- The Root Of The Light
- Sing, Sing, Sing - Give Me A Break
- Take Me In Your Arms
- For Heavens Sake
- Giant Steps
- I'm Gonna Go Fishin'
- Forest Star
- Being Called 1
- Downtown Loop
収録曲の作者は、#1 は、キース・ジャレット、#3(の半分)はスウィングの有名曲、#4 #5 はスタンダード、#6 はジョン・コルトレーン、#8 はかつての同僚の曲。オリジナルは #2、#3(の半分)、#9、#10。というわけでオリジナルは半分。アレンジっぷりを聴いてください!とリキが入っている「Giant Steps」以外はオリジナルかカバーかは気にせず聴ける。
ピアノ、エレピ、オルガンを曲にあわせて&曲の中でも自由に使い分けていて、そこが美味しい。
#1 オーソドックスなピアノ・トリオ。
#2 はひたすら疾走するエレピ。強く打鍵したときにヴォンと歪む低音がたまらない。ローズっていうのかな?この機種のエレピはその歪みによって表現力が広がる。低音はふぉんふぉんヴぉん、高音はころころびきゃっ、と。奏者の意図や意図に
Pick Up「Sing, Sing, Sing - Give Me A Break」
#3 が問題作。「Sing, Sing, Sing - Give Me A Break」という曲名であるが、オリジナル「Give Me A Break」が主体で、ところどころ「Sing, Sing, Sing」のモチーフをザッピングさせている。オリジナル部分は無骨でヘヴィメタルな 7 拍子(仮に 7/8 とする)。7 拍子リフにのっかるピアノソロはたどたどしく始まるものの、徐々にテンションがあがって変拍子なんぼのもんじゃいとねじ伏せる様がすがすがしい。うまくいえないんだけど、このねじ込み方が Jazz 的。ロックの人がねじ込むとこうはならないはず。
▼ YouTube - "Sing, Sing, Sing _ Give Me A Brea" 山中千尋 (sound_only)
そんなピアノソロが空けて 1/2 テンポ(7/4)の明るいバックにねじれたオルガンソロをぶちかます展開はどこで身につけタンですか。最近のバークリーでは「プログレッシブな手法」も教えてるんですか!?悪くゆっちゃうと「B 級プログレ」風なんだけど、「だが、それがいい」。ピンクとグレイの地で踊る鳥人間たれ!*1
プログレ的感性の消化吸収率では上原ひろみに軍配。キース・エマーソン!エレクトリックでは断然 山中千尋が好きです。
▼ YouTube - Hiromi Uehara - XYZ
関連:http://d.hatena.ne.jp/fractured/20061210/1165770449
#4 〜 #5 に間髪いれずにつながります。プログレの後は、軽快なスタンダード→バラードとひとやすみ。
#6 そして満を持して「Giant Steps」。前半3拍子&エレクトリック、後半4拍子&アコースティックアレンジ。いきなりアドリブから始まってちょっと面食らった。元ネタ当時は曲の演奏困難さにピアニストがへたってしまっていたのに、40 年の月日を経る間に、人類は平然と弾いた上にさまざまなアレンジを施してしまうのだなあ。どうでもいい感慨。元ネタはこちら。
関連:http://d.hatena.ne.jp/fractured/20070430/1177957360
#7 は古典的な編曲・演奏。#7 の後半速度を一気に速め弾き倒す様を聴くと買ってよかったなあと思う。「誰しもがやること」ではあるけど。過激なバップゲームを、異口同音的な演奏の中から的確に演奏者の個性を抽出して「このフレーズはパーカーのうんぬんだ」みたいにああだこうだ論じるのが真の娯楽なのだろう。そんなタンメンは関係ねぇ!とばかりに「例の速いジャズがきた」くらいに大雑把に楽しめばいいとおも。
#8 は現代的、#9 は前衛的。どろっとしてフリー。私は Hentai ですからこれと #3 の調子を基調とした執拗的にプロデュースされたアルバムをとても期待してやまない。
#10 は「To Be Continued」。
まとめ
- いろいろ趣味がありますよという見本市みたいで楽しい。あんまりぐっとはこないけど飽きずに聴きやすい。
- これを踏まえた上でどこかに的を絞って作り込んだ作品を聴いてみたい。
- DVD も出ているのにネット上に動画がほとんどあがっていない。日本人の積極的な動画サイト利用者層と山中千尋を聴く音楽ファン層がまったく重なっていないことに絶望した。
#3 の元ネタスウィング・ガールズバージョン(1:20〜)*2
関連:
*1:グレイとピンクの地+5 / [asin:B00005IG5V:title]
*2:個人的には、この映画の影響でジャズへ眼差しが向けられたことはよいことだが、ジャズ→スウィング・ジャズという印象が広まったのが残念に思う。なぜならモダン以降が好きだから。願わくば「ビバップ・ガールズ」や「フリー・インプロヴィゼーション・ボーイズ」や「レコメン系チェンバーロック・ブラザーズ」とか「キング・クリムゾン・カバーバンド」とか・・・