怪奇骨董たおやめぶりっこ

ますらおぶりに憧れるブログ。涙がちょちょぎれちゃう。だって怪奇骨董たおやめぶりっこだもの。

「Beyond Standard」Hiromi's Sonicbloom

今日聴いた音楽上原ひろみのバンド Hiromi's Sonicbloom の最新作。カルテットになった Hiromi's Sonicbloom 名義では 2 枚目。2008 年製。上原ひろみによる「スタンダード」曲集。やってくれました。第一印象★★★★★

[asin:B00162LY2O:detail]

Hiromi Uehara(P,Key)
David Fiuczynski(G)
Tony Grey(B)
Martin Valihora(Ds)

  1. Intro: Softly as in Morning Sunrise
  2. Softly as in a Morning Sunrise
  3. Clair de Lune
  4. Caravan
  5. Ue Wo Muite Aruko
  6. My Favorite Things
  7. Led Boots
  8. Xyg
  9. I've Got Rhythm
  10. Return Of Kung-Fu World Champion (Bonus Track)

概論

前作、「Time Control」が、1曲1曲の単位では良き曲がたくさんあるも全体的通すとちょっと退屈だった。なにより新加入のギタリスト、フュージンスキーが半分空気で、トリオ+αのような具合だった。ギターがひっこんでトリオで盛り上がる曲が上出来ということも。

その点、早くも本作ではフュージンスキーがバンドに溶け込み・・・いや異物感を損分に発揮し、カルテットのサウンドができあがっている。存在感が全然違う。いいじゃないぐにょぐにょしてるじゃないくせものじゃないフュージンスキー!

「ドリーム・シアターが他人の曲のカバーだとやたらノリノリ」みたいな現象がここでも発生しているのか、ジャズを素直に楽しんでいる空気がなによりもいい。汎音楽的な傑作「Spiral」と双璧を成す会心のアルバム。

各論

Youtube の動画は埋め込みプレーヤーではなくリンククリックでみると音質&画質が向上している可能性があります(リンクにはfmt=18のおまじないをつけています)。

「朝日の如くさわやかに」

ドラマチックな幕開け。アルバムの幕開けってこうじゃなくっちゃ。堅めの 7 拍子で、各メンバーが渋めのソロでご挨拶。ギターとピアノのかけあいが素敵ですね。ジャズ芸能。こういうのは生で見たい。相手のターンを不敵な笑みで眺め、自分のターンでみせつける、みたいな駆け引き。あるいはできるものなら自分が参加したいものであります。

▼原曲:YouTube - Kenny Garrett 'Softly, as in a Morning Sunrise' (audio only)

▼参考:YouTube - Softly as in a Morning Sunrise

そんなことより聴いてよこれ。エリック・ドルフィ版。このバスクラリネットのヤバい音をよおおおお!!・・・と思ったらいろんな人による「朝日の如くさわやかに」の聞き比べメドレーだった。MJQ(The Modern Jazz Quartet)の演奏、これ一番有名なやつですね。

「月の光(ドビュッシー)」

えっとこれはドビュッシーでしたっけ?と原曲が思い出せないほどすっかりもっだーんでこんてっぽらりーにハーモナイズされた月の光。ピアノ→ギター→ベースと水面に散乱する月の光のようなきらびやかなソロが続く。あるいはコーヒーに月を浮かべる叙情的な様子。

▼原曲:YouTube - David Oistrakh, Debussy - Clair de lune

これにだけはピアノ+ヴァイオリンのデュオによるこのクラシック演奏のほうがひゃくまんばい好きですね。

キャラヴァン

デューク・エリントンによる古典作品。フュージンスキーの怪しさが最も発揮されている曲。ギターというかもうアラブ世界の別物になっております。こまかいフレーズまで・・・ギター奏法用語がわからんのですが「ピッチベンド」されていて、平均律外の音程が鳴っている割合が高いのが怪しさに拍車をかけている。キーボード〜ピアノはなぜかラテン系。

▼原曲:YouTube - Duke Ellington, Caravan, Juan Tizol 1952

上を向いて歩こう

切れのあるアレンジ。何風っていうのかな。アルバム的には小休止。

マイ・フェイヴァリット・シングズ

冒頭からねじれたリズムに幻惑される。これはどういうリズムなのだろう。中間当たりでピアノがわかりやすくフレーズを弾いているところを注意して聴くと「3+3+3+3+2」の 14 拍。おお 14 拍子。このテンポで 14 拍子になると、変拍子のつんのめりというよりは心地よいうねりを生み出す。3,3,3,5 みたいな聞こえ方で、4 拍子の 4 拍目がちょっと長くてタメが効く感じ。「朝日の如くさわやかに」の 7 拍子と比較すると、その違いは歴然。どっちも大好き。

▼原曲:YouTube - My Favorite Things

そんなことよりきいてくれよおおコルトレーンのヤバい演奏を・・・とはやりませんよ。寸止めプレイ。

レッド・ブーツ

ジェフ・ベック作。なんといいますか、ジャズドラマーが叩き出す 8 ビート/16 ビートというのはとても心地よいものですな。さすがのフュージンスキーさんも、ここでは明快なリフと快活なカッティングでサポートしております。上原ひろみは、エレピ→ピアノ→エレピ&ピアノと一人ソロ回し。1 ターン目のエレピが好きだな。エレピの暖かさがとてもよく活きている。と思いきやさいごにゃやっぱりフュージンスキーさんが辛抱たまらんとフィルターをぱくぱくさせながらねちっこいソロ。

▼原曲:YouTube - Jeff Beck -- Led Boots (Crossroads 2007)

XYG

「XYZ」のセルフカバー。もはや上原ひろみのスタンダード曲というわけですな。XYZ は、「エックスマーソン&ィエイク&ザーマー」の略ですからね。冒頭の超絶キメ連打から、機械的なリフに入る。リフの上にのっかるエレピが妖艶無比の絶品ソロ。なんだろうこれ。淡々と弾いているんだけど。すっかりギター込みのカルテットの曲として生まれ変わった。プログレ、バンザイ!

全編通じて紳士的なベースがここでは「だうーん」「だうーん」と粘り腰のプレイで魅せてくれる。

▼原曲:YouTube - XYZ - Hiromi Uehara

▼参考:karn evil #9 2nd impression


アイ・ガット・リズム

ガーシュイン作。クラシカルな演奏から始まって、劇的にモダンなハーモニーに移行し、そのまま徐々にフリーさを増しす。ジャズの歴史を追う教材みたい。終盤は全力疾走超音速のプレイで燃え尽きる。

▼原曲:YouTube - Billy Taylor and Ramsey Lewis - I've Got Rhythm


▼関連:YouTube - Bireli Lagrene - I've Got Rhythm (live) with Didier Lockwood

おおっと。ヴァイオリンがロックウッドだよ。元 MAGMA でお馴染みの。宇宙的傑作ライブ「トゥールーズ」などで大活躍しているロックウッドだよ。すっかり大物になりやがって・・・!

参照:http://d.hatena.ne.jp/fractured/20061209/1165685041

リターン・オブ・カンフー・ワールド・チャンピオン

日本盤ボーナストラック。ライブ音源。アンコールなのかな、シンセのイントロが始まってゆくさまを聴くだけで、もうすっかりその場にいるかのごとくテンションが上がってくる!アルバム「Spiral」に収録されているスタジオ録音版は正直あまり好きじゃなかったけど、これを聴いて見直した。名曲名演じゃないですか。

プログレの最大公約数的楽曲はずばり何か?」と問われたら、あなたは何をあげますか?わたくしは Genesis の「Watcher of the Skies」かなあと暫定的に思っていたわけですが、なんならこの「Return Of Kung-Fu World Champion」をあげても良いんじゃないかと魔が差しました。あくまでも魔ですけどね。