「Prog」The Bad Plus/「Moving Pictures」Rush
新入荷。Jazz。ミネアポリス出身のピアノ・トリオ、The Bad Plus の 5 枚目。2007年製品。「Prog」なるタイトルは伊達じゃあないプログレッシブさだ!第一印象「★★★★」
- Ethan Iverson(p)
- Reid Anderson(b)
- David King(ds)
- Everybody Wants to Rule the World (Tears for Fears)
- Physical Cities
- Life on Mars (David Bowie)
- Mint
- Giant
- Thriftstore Jewelry
- Tom Sawyer (Rush)
- This Guy's in Love with You (Burt Bacharach)
- World Is the Same
- 1980 World Champion
()はカバー曲
通勤中にぼーっと聴いていたら「わ、Rush だ!」と 7 曲目で飛び起きた。
というわけでクレジットを見直してみる。カバー曲が全然 Jazz じゃないところに注目。Jazz っつえば、モンクとかデイビスとかを取り上げてその「解釈の妙味」を披露するもんだが*1、こちらは Rock/Pops で占められている。恥ずかしながら、原曲をちゃんと知っていたのは Rush のやつだけでした。
カバー曲のききどころ
#1「Everybody Wants to Rule the World」は Tears for Fears のカバー
▼YouTube - Tears For Fears - Everybody Wants to Rule the World
原曲はいかにもな '80 年代サウンドで、幼少期のトラウマの扉が開きそうで腸がねじれるような気持ちになりますね。Bad Plus 版は、オーソドックスなバラードで一安心。かと思いきや終盤にかけてベース・ドラムが神経質な演奏に変貌して今にも発狂しそうな緊張感を演出するところがききどころ。
余談だけど、Tears for Fears という名前はちょっと King Crismon 関連で知っていた。'81/4/30 の '80 年代クリムゾンお披露目ギグ*2のライブアルバム*3のライナーノーツに以下のような文面がある。
バンドの写真だけじゃなく、バンドの間をちょこまか走る連中の写真も撮れていた。後にこの時の写真を調べていたら、最前列にティアーズ・フォー・フィアーズのメンバーが数人いたことが判明した。
めぐりめぐってこんなアルバム経由で聴くことになろうとはなんというめぐり合わせ。
#3「Life on Mars」は David Bowie 作
▼ YouTube - David Bowie - Life On Mars?
原曲動画でしばしボウイに魅了されてきました。ただいま。さて、Bad Plus の消化吸収再構築っぷりは見事。「デビット・ボウイ」という最強の楽器を使えないハンデを完全に乗り越えた。どたばたどたばたと空間を埋め尽くすように盛り上げてゆくドラムが敏腕。ここぞと一瞬鳴るメロトロンにめろめろ。
そして #7「Tom Sawyer」は Rusu 様
すみません、またもや原曲画像に魅了されてきました。ただいま。さて、Bad Plus は、原曲に近いアレンジです。Rush 自体が超人的なトリオなので、同じく超人的なトリオである彼らが取り上げれば必然的に似てくるということかも。ボーカル部分が、ピアノの右手に現れたり左手に現れたりベースにあらわれたりハーモナイズされたりするところがアレンジの妙。
▼ YouTube - Bad Plus - Tom Sawyer (1 of 2)
ライブ動画がありました。聴き所は中盤、1'30〜「7拍子のぴこぴこリフ」が突如変容してピアノが爆速のアドリブを繰り広げるところ。これはドリーム・シアターにはできない芸当だとにんまり。
オリジナル曲のききどころ
なんつっても、#2「Physical Cities」が白眉。オフィシャルサイトの解説を機械翻訳にかけたら面白い文章になったのでそれをもって紹介。
アンダーソンによって書かれた系列、レベルが「物理的な都市」で劇的にスパイクするエネルギー、運転、および衝撃の道では、早いです。 「都市」は、すべての3人のプレーヤーの中で蛇のような交錯を特徴として、槌で打つことで閉じます、途方もない無調のクレッシェンドへ譲り渡される機関銃リフ。
http://www.emarcy.com/release.php?id=162
イントロのベースフレーズから TZADIK 産な雰囲気を漂わせながら疾走し、「途方もない無調のクレッシェンドへ譲り渡される機関銃リフ」を何かにとりつかれたように執拗に繰り返す。「ついに一線を越えた ZAZEN BOYS」はこうなるんじゃないかという妄想が過ぎる。
▼ YouTube - The Bad Plus - Physical Cities
ちょうどその部分があがってました。
その他の曲は、作曲者の特徴がとてもよくでていて面白い。ピアノの人はフリー、ベースの人は落ち着いていて、ドラムの人はばたばたしている。個人的にやや難を言えば、もう1曲プログレ/アヴァンギャルドなトラックが欲しかったかな。
まとめ
いやもうね、アルバムタイトルの「Prog」そのまんまの内容。いちおう、ジャンルとしては Jazz に位置づけられているけど、むしろ保守的に Jazz を聴いている人からは「こんなの Jazz じゃねえ」と怒りを買いそうだ。Jazz の基盤としながらも、Rock/Pops を大胆に飲み込んで吸収し独自の音楽を噴出している。これは「プログレ」とタグを貼るしかない。
The Bad Plus を聴くのはこれが初めてです、「次に聴くならこれ」あるいは「それが気に入ったならこれもおすすめ」みたいのありましたらぜひご教授くだされ。
連想「Moving Pictures」Rush
'81 年、カナダ製。Rusu の代表作に挙げられることが多い作品。1曲目「Tom Sawyer」が上のアルバムでカバーされていた関連。
Rush はだいたいスタジオアルバム4枚発表するごとに決算的なライブアルバムを挟んで音楽性を変化させている。その区切りでは「Moving Pictures」は第2期に相当する期間にあたる。シンセサイザーを導入し、コンパクトでポップな曲を導入した時期*4。「ちょっとプログレ味型ハードロックバンド」から、「変拍子ポップソング型ロックバンド」への変質。これがメタルへ取り込まれて我々人類はドリーム・シアターを産み落とすことになる。
と、Rusu について俯瞰してみましたが完全にハッタリであります。Rush は、各時期ごとにライブ音源+スタジオ1枚ずつ程度しか聴いておりません。ほんとハッタリですみません。
じゃあさっそく、世紀の名曲「Limelight」をお聞きアレ。
めまぐるしく変化するリズムにのかった切ないポップソング。めまぐるしくリズムが変化していることを意識させないあたりが超クール。「めまぐるしくリズムを変化させてるぞ、どうだすごいだろ。」と見せ付けてくるドリーム・シアターを大人気なく感じてしまうほどクール。
もう1曲。
イントロのリフからしてステキ。モールス信号の「YYZ」になっています。
−・−− −・−− −−・・ つーとつーつー(5/8) つーとつーつー(5/8) つーつーとと(6/8)
Rush の成功によって、音楽的にも商業的にも「プログレ」なる場に新たな息吹が吹き込まれた。それは、伝統的な「5大バンド的プログレ」とは異なる新しい流れ。ゆえに、「5大バンド的プログレこそプログレ」とする保守的な史観では Rush はプログレからはずされることが多い。それはもったいないことだど思うよ。どうでしょう。はい余談でした。
というわけで、本エントリーで紹介した3曲が示すように、「プログレッシブで変体でポップな」音楽をお求めのあなたにうってつけな一枚。保守的プログレ入門としても、メタル的プログレ入門としても、あるいはプログレ脱出としても架け橋となる作品。
お気に入り度:84点
*1:クラシックに近い感覚だね。クラシックは音符を1つでも変更したら「神への冒涜」とか「原曲レイプ」とか言われて抹殺されてしまうけれど。
*2:その日はまだ King Crimson じゃなくって Discipline と名乗っていた
*3:COLLECTORS’ KING CRIMSON [BOX4] 1981-1982
*4:'80 年代を生き抜くためには必然なのかしらね。